Tuesday, October 18, 2011

日本の薬剤師の現状に薬学生は失望している?

ホームページやブログを通じて、若手の薬剤師さんや薬学生の方から進路やキャリアについて相談を頂きます。

私にとってそれは非常に嬉しいことです。
なぜなら、私自身が学生の時、日本で薬剤師として働くことに魅力を見出せず、悩んだ時に、誰に相談して良いのかわからずに苦しんだ経験があるからです。


最近の学生さんの悩みでよく聞くのは教育現場と医療現場の乖離です。
「学校では高度な薬物治療やチーム医療の中での薬剤師の役割について習うのに、実際現場を見てみたら、作業ばかりで、全然患者と接することができないし、患者を見ていない」と言うような内容です。

実習などで現場を見て、薬剤師の役割を改めて認識し、モチベーションを上げて帰ってくる学生も沢山います。
一方で上記のように、理想と現実のギャップに失望する学生も少なからずいます。

志が高ければ高いほど、悩み、苦しみます。
日本で薬剤師になるために、このまま勉強を続ける意味があるのか、医学部に入りなおして医師になった方がいいのではないか、または米国など海外で薬剤師になった方が自分が理想とする形で働けるのではないか、そのように考える人もいます。
個々によって、キャリアに対する価値観、人生において大切なものは異なりますので、それぞれにあった道があることと思います。
私自身も、学生時代から国際薬学生連盟を通して知り合った各国の薬学生と交流する中で、薬剤師として自分に何ができるか、悩み抜いた末に、卒後、青年海外協力隊として国際協力に関わることを選択しました。


ただ、現在私自身は、日本で薬剤師として働くことに魅力を感じています。

理由は主に二つあります。
一つは、自分が生まれ育った日本で、医療を通して日本の地域の人々の貢献したい、と言う思いがあること。もう一つは日本の薬剤師を取り巻く環境が、日々刻々と変化しているからです。


日本における薬剤師の立場は現時点では必ずしも理想的な環境にはないかもしれません。でもそこだけ見て未来への希望を捨てないでほしい。変えていこうという志を持っている人が沢山います。
薬学生のみなさん、どうか、現在の薬剤師を取り巻く環境が自分が一生働く環境だと思わないでください。


ここ数年だけ見ても、私が学生時代に米国の薬局で実習した際に、「米国の薬剤師はこんなことができるんだ」と衝撃を受けたことが日本で少しずつできるようになってきていることに、私自身は驚くと同時に、希望を見出しています。これからもっと変わっていくでしょうし、変えていかなくてはならないと思っています。そして同じように考えている仲間が沢山います。どうか、結論を急がずそう言った人たちに会ってみてほしいと思います。



そして、日本の医療をもっと良くしていこうと奮闘している薬剤師のみなさん。
伝えなければ、世間の人も、学生も、みなさんの活躍を知ることはできません。

どうか自分の考えや取り組みをもっと世の中に発信していきましょう。









※参考

国際薬学生連盟 www.ipsf.org 日本薬学生連盟 http://apsjapan.org/index.html
学生時代に活動していました。各国の薬学生と交流したり、団体を通して海外で実習を経験したり、また日本の医療を変えていこうとしている多くの仲間にも出会いました。


Pharm.Dクラブ http://pharmd-club.cocolog-nifty.com/blog/
日本の薬学教育、薬学実務の水準向上に貢献することを目的に海外で臨床教育を受けた日本人薬剤師のネットワークです。

Tuesday, October 04, 2011

ドラッグストアで「ロキソニンS」「ガスター10」が買えない、 を読んで



ドラッグストアで「ロキソニンS」「ガスター10」が買えない

かけ声ばかりのセルフメディケーション



日経ビジネスの上記の記事を読みました。
この記事には残念ながらいくつかの大事な視点が欠けています。


まず、何の為に薬剤師がドラッグストアに必要なのか、という視点。

薬剤師は第一類医薬品を売るためだけに存在する道具ではない。
患者や消費者の健康と生活を守る為にいる。

なのに、一類が売れないから、売れるように規制緩和をする、と言うのは患者の健康・生活を守るという最も重要な視点から見ると、本末転倒である。


本来、薬剤師は、一類医薬品に限らず、OTC全般、健康食品、また食品や医療用医薬品との相互作用、さらには必要に応じて受診勧奨や生活アドバイスなどの相談を応需してきたし、今後もすべきである。

私も実際、薬剤師としてドラッグストアで勤務していて、受診勧奨が必要なお客さんに出会ったことが何度かある。そう言った際は、地域の医療機関に連絡を取り、対応していただく事も、薬剤師だからこそできる。

今後、薬剤師がバイタルサインをとったり、フィジカルアセスメントをできるようになっていけば、ドラッグストアの薬剤師がプライマリヘルスケアの一翼をにない、長期的支援も可能になるし、相談応需と医療機関との連携が更に重要になっていく。


それだけ重要な役割をになっているのだから、薬剤師のコストが高いのは当然である。
しかし、薬剤師をコストに見合った、更にはそれ以上の有効活用するかしないかは、経営者次第だ。
ドラッグストアが価格競争以外で勝負する余地があるのは相談応需による信頼の獲得である。それができる薬剤師を獲得できるだけの、魅力的な企業になること、またそのような薬剤師を育てるのは、教育機関とドラッグストア各社の義務である。



また、薬学生のドラッグストア就職敬遠傾向に関しては、最近の薬学生と話す限りは、だいぶ、その様な偏見は減ってきていて、むしろ、ドラッグストアこそが、地域の核となり、トータルヘルスケアを実現できる場である、という認識も広まりつつある、と感じる。


また、ドラッグストアの仕事は資格(専門性)に関係ない、と言うの主張も、
どのような業務をするかは各社の方針によって異なるし、そして、
何をするか、ではなく、重要なのは何の為にするか、である。

一般従業員が行える仕事であっても、薬剤師が行うことで意味が変わる。

例えば、ハンドクリームを求めるお客さんに対し、ただ、ハンドクリームコーナーを案内するのは一般従業員でもできるが、お客さんの手荒れに対し、化粧品か、医薬部外品で対応すべきか、医薬品で対応すべきか、また原因や症状によっては受診を勧めるべきなのか。
この判断ができるのは薬剤師だけ。
たかがこんな作業、と言ってしまえばそれまでだ。



来年度以降、ドラッグストアの薬剤師不足が緩和される、と言うのも甘い予測に聞こえる。実際、ドラッグストア各社は新卒採用に苦労を強いられているところが多い。また深刻な人材不足の問題を抱えているにも関わらず、会社の方針として、新規出店ラッシュが続いているという矛盾も存在する。更には、ドラッグストア業界は離職率が高い業界の一つでもあると言う一面もある。


私達薬剤師は、社会が自分達をどう評価しているのかに対し、もっと敏感にならなければならない。
そして、自分達の職能、専門性、役割、責任とそれらの可能性に関して、もっと、社会に発信していかなければならない。
そして社会のニーズに応えられるよう、日々、学び、積極的に取り組んでいく必要がある。